紫色の侵入者。
ようやく学期末の試験と課題が完了しました。
自分、よくやった。
は? 試験前に、この課題の量はおかしいだろ。聞いてない聞いてない。
長時間のデスクワークで背骨曲がってきたし、目の霞が悪化したし、そもそも散歩にも行けないからブクブク太ってきたし、、、
とか何とか思いつく限りの文句を散々ぼやいていたものの、
無理、できない
の二言だけは絶対に口にしないよう、心がけていました。
本当は、一言も文句を言わずに作業をこなしたかったんだけど、皆さんご承知の通り、私はそこまで出来た人間ではないんです。
試験終わったらダイエット! なんて意気込んだ目標を手帳に記しておきながら、相変わらずデスクワーク生活のままハイカロリー食にひょいひょい手を出してしまう。そんな人間なんです。
(タダで食べれる場所に行くと、ここで食いだめしとかなきゃ! とか何とか言い訳して、胃袋に入れるだけ食べ物を詰め込んでしまう。ついでに予定がない日は、寝溜め。頭が痛くなるほど、眠り続ける。冬眠前のクマかよ 🐻)
だって、お腹がすぐに空くんだもん。
そういや、日本に一時帰国した際に焼肉を食いだめしている私を見て、父が「お前、牧場主んとこに嫁ぎな」って言ってきたことがある。
でも、その後すぐに「あ、そりゃダメだ。女房に、商品食い荒らされたら、牧場が赤字で潰れちゃうもんな」って言い足された。珍しく何か言ってきたかと思えば、すぐに私の悪口。父さん、愛情表現が歪んでますよ。
そんな話はさておき、私が金縛りデビュー⭐︎ をした話でも始めましょうかね。
それは、古典英文学の試験前日に起こりました。
もう薄々お気づきだとは思いますが、私は試験が大の苦手です。
なぜかって?
試験で散々嫌な思いをしてきたからですよ。
幼い頃はスパルタで有名な塾に通っていたので、常にテストのオンパレード。自分の年齢よりも受験番号が、真っ先に頭に浮かぶ。それくらい、放課後と週末はテストばかり受けていたんですね......。
で、そのスパルタな塾に私を通わせる当時の母も、これまたかなりのスパルタで、
暇があってもなくても、とにかく私の試験の結果のことばかり考えている。
数字バカな私はいつも算数の成績が悪くて、塾では恥をかき(ご丁寧にも、毎週全員分の試験結果を廊下の壁に張り出し、成績が変わる度に新しい席順表を用意してくださるんですよ、この塾の先生方は。まっこと、ご苦労様です)、家では鬼女と化した母と文字通りの鬼ごっこをする日々。
(鬼「あんた、本ばっか読んでるから、いつまで経っても算数ができないのよ!持ってる本、全部出しなさい!」私「この本はダメ! 学校の先生が特別に貸してくれたんだもん! 今週中に読み終えて返さないと」鬼「あ? 誰だ、受験生に本なんか貸す教師は?」私(いやいやいや、生徒に本を貸すくらい、普通だろ。ダメだ、この人、怒りですっかり理性を失っている......))
とにかく、テストが怖くて怖くて仕方がなかった。
自分がここまでテスト勉強ができないことに愕然としたし(スパルタ塾に通うまでは、よく大人から「ユカちゃん、難しい言葉をよく知っているね」と褒められていたから、正直自分は勉強ができる方だと思っていた)、母から周りの「試験がよくできる子」と比べられるているうちに、いつの間にか自信をすっかり無くしてしまった。
(でも、おばあちゃんだけはいつも私のことを誇ってくれた。本当に、どうしてそこまで私のことを信じてくれるんだろうか。私はおばあちゃんが思っているほど、心優しくも、才能に満ち溢れているわけでもないのにね)
流石に二十歳を越えた現在は、母が私の成績に口出ししてくることはなくなりました。
そもそも、専攻が文学だしね。試験前に本を読んだって、罪にはならないんだわ。ははは。
だけど、未だに「試験」というワードに怯えてしまう私。
去年のファンデーションコースでも試験前に一睡もできなかったと以前お話しましたが、私は本当に試験に弱いんです。(試験本番に弱いというわけではなく、試験という存在自体が私の弱点)
何したらいいんだろ。この問題でなかったら、どうしよ。私の勉強法、本当に合ってるのかな。
そんなことを悶々と考えている私は、まさしくパニック状態。
夢にまで試験が出てくる出てくる。
(でもこの場合の試験は、すべて数学)
で、そんな状態の中寝ていたら、
ついに金縛りまで呼び寄せてしまった。
私が住んでいる寮では、たまにメンテナンスの人がやって来て各部屋の扉をノックして廻るということがあるのですが、金縛りが起きた夢の中で「ドンドンドン」とノック音を聞いた私は、最初「ああ、またメンテナンスの人が来て、別の部屋のドアを叩いてるのか。まだ寝たいから、ドア、開けたくないなあ。私の部屋にだけ、来なければいいのに」なんて呑気なことを考えていたんですね。
ところが、私の部屋にだんだん近づいてきたこの「ドンドンドン」、私の部屋の一歩手前まで来るか、というところで、突然ピタッと止まってしまったんです。
どうやら、メンテナンスの人、私の部屋が見えなかったみたい。
良かった、これでベッドから出てドアを開けに行かなくても済むわ。
と、私は胸を撫で下ろしました。
というのも、私の部屋は廊下の一番奥にあって、しかも(ちょっと説明が難しいのですが)扉の両サイドに突き出た壁があるため廊下の手前からは死角になるんですね。だから、廊下の端まで確認しないようなおっちょこちょいさんがメンテナンスに来て、私の部屋だけ忘れて帰ってしまう、というようなことは充分にあり得る話。
そんなわけで、さあ、もう少し寝よう。と、薄く開けていた目を再び閉じようとしたその時、
私の部屋の扉が音もなく開いたんです。
扉が開いた瞬間を見たわけではないけれど、誰かが部屋に入って来る気配をはっきりと感じました。
あれ? 私、鍵かけずに寝ちゃったのかな? いや、待てよ。ノックもせずに、部屋に入って来るのっておかしくないか。
と思い至った瞬間、急に寒気。
え? 誰が部屋に入って来たの?
確認しようと目を凝らす前に、誰かが寝ている私の横に腰掛けたのを感じる。
ちょっと待って、誰? 誰?
目玉だけをぐりっと動かして、確認してみると、
見えたのは
全身紫色の人。
目なし。鼻なし。口なし。
ただただ全てが紫色。
イメージ ↓
いや、イメージじゃない。まさしく、「この紫」が私のベッドに腰掛けてたんだ。
私、パニック。
え、何これ。夢?
にしては、現実的。
あ、もしかして。
これが、金縛り?
と、私が思いついた瞬間、ミスター紫がこちらを向いた。
向いたと言っても、目がないわけだから、本来なら彼がどこを見ているんだか分からないはずなんだけど、何故だか強い視線を感じる。
え、金縛りって紫なの?
とか何とか訳の分からないことを考えている私に、馬乗りになるような形でどんどん顔を近づけて来るミスター紫。追い払いたいけれど、私の体は完全硬直。
そして、彼はくぐもった声で何やら呪文のようなものを唱え始める。
タカノゾミ、タカノゾミ......
え? たか、のぞみ?
って、高望み?
呪文の意味を理解した途端、恐怖が一気に吹っ飛んだ。
誰が、高望みしてるって? うるさい! 黙れ!
アーーーーーーーーーーーーーーー!!!
気づけば、私は思い切り叫んでいた。
高望みだって、知ってるよ。
それでも、やるんだ。文句あるか? あ?
怒り狂う私。ミスター紫に、私の何が分かるってんだ。
いつの間にか私の体の硬直は解けていて、そうか、そうと分かればいっちょミスター紫に説教でも、、、
と思って体を起こしてみると、ベッドの上には誰もいない。
これが、金縛りか。
と、途端に冷静になる私。
金縛りの話は、他人からよく聞いていました。
何かに悩んでいたり、ストレスを溜め込んでいたりすると起きる現象らしいですね。
脳は起きているのに、体がそれに反応できないんだとか何とか聞きましたが、
要するに試験に対する恐怖が私の中でまだ収まっていなかった、ということになるのでしょう。
でも、あのミスター紫に対して思い切り叫んだ瞬間から、私の気持ちが少し楽になったような気がします。
突然、高望み、なんて言われたから
純粋に「この野郎! バカにしやがって!」ってムカついてしまったよ。
ミスター紫。
私は自分にも他人にも甘いから、君の侵入は試験に怯える私に活を入れるためだったとポジティブに解釈するよ。
でも、この一件から寝る前の戸締りには一層気を配るようになりました。
金縛りか、本当の不法侵入かすぐに判断できるように、ね。
うん、これでひと安心。
いや、
どっちも怖いわ。